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大パワーはない、だが気持ちいい――スバル BRZ GT(ZC6)'16レビュー

■ 基本スペック (ノーマル時)

項目スペック
メーカースバル
駆動方式FR
エンジンFA20 水平対向4気筒 NA
総排気量1,998cc
最高出力207ps / 7,000rpm
最大トルク21.6kgf・m / 6,400-6,800rpm
全長×全幅×全高4,240×1,775×1,320mm
車両重量1,250kg
トランスミッション6速MT

速さを見せびらかさない。だが、運転の楽しさだけはかなり本気だった

スバル BRZ GT(ZC6)'16は、今の時代に振り返るほど面白い車です。
なぜならこの車は、現代のスポーツカーが当たり前のようにやることを、かなり意識的にやっていないからです。

大パワーで押し切らない。
4WDで全部まとめない。
ターボで中間加速を誤魔化さない。
豪華なブランド感でも勝負しない。

その代わりにBRZがやったのは、
低い重心、軽すぎないが重すぎもしない車体、FR、自然吸気、そして“自分で走らせる楽しさ”を前面に出すことでした。
この潔さが、ZC6の一番の価値です。

だからこの車は、カタログスペックだけ見ると地味です。
もっと速い車はいくらでもある。
もっと豪華なクーペもある。
でも、いざハンドルを握ると、
「こういうのでいいんだよ」
ではなく、
「こういうのが本当は必要なんだよ」
と言いたくなる。
それがBRZ GTです。


BRZは、トヨタ86の兄弟車でありながら、少し違う空気を持っていた

この車を語る時、86との関係は避けられません。
骨格も、思想も、基本部分はかなり近い。
だから雑に見れば兄弟車です。
それは事実です。

でも、BRZにはBRZなりの空気があります。
86が少し軽快で、少し遊び心のある顔つきだとすれば、BRZはもう少し真面目で、もう少し落ち着いていて、少しだけ“大人びたスポーツクーペ”に見える。
実際、このGTグレードになると、その印象はさらに強くなります。

つまりBRZ GTは、
若さ全開のFRクーペというより、運転が好きな人がちゃんと選ぶFRクーペ
なんです。
ここが意外と大きい。
同じ中身でも、車の見え方はかなり違う。


この車の良さは、“絶対性能の不足”が“楽しさの不足”に直結していないこと

BRZを知らない人が数字だけ見ると、だいたいこう思います。
「今どきの2リッターNAで200馬力ちょっと? 遅くないか」と。

その感想は、半分正しいです。
直線だけで見れば、今のターボ車や電動化された高性能車のほうがずっと速い。
だから、加速の数字だけで驚かせる車ではありません。

でもBRZのすごいところは、
その不足感が、運転の楽しさの不足にほとんどつながっていないことです。

むしろ逆で、
パワーがほどほどだから回す意味がある。
タイヤが太すぎないから姿勢が分かる。
FRだから向きの変わり方に意味がある。
低重心だから動きが素直。
要するに、
“速さを少し抑えたことで、運転そのものが濃くなっている”
んです。

ここは本当に大きい。
今の車は速くても、運転する側の仕事が少ないことがあります。
BRZは、ちゃんとドライバーに役割を残してくれる。
この感覚が好きな人には、かなり深く刺さる。


GTというグレード名も、この車には合っている

BRZ GTという名前は、意外と絶妙です。
この車は、STIのような完全戦闘仕様でもない。
かといってベースグレードの素っ気なさ一辺倒でもない。
少し装備が整っていて、少し見た目にもまとまりがあり、そしてちゃんと“乗る車”としての雰囲気がある。

つまりGTは、
BRZの真面目さと日常性を、ちょうど気持ちよく味わえる位置
なんです。

BRZは、最初から割り切りだけの車ではありません。
2+2ですし、トランクも一応あるし、日常の中に入れようと思えば入る。
その“完全な趣味車に振り切らない感じ”とGTグレードの立ち位置は、かなり相性がいい。
だからGTは、ただ中途半端なのではなく、BRZという車の性格をかなり正しく表しているグレードだと思います。


見た目は派手ではない。だが、スポーツカーとしてとても正しい

ZC6のBRZは、見た目の押し出しだけなら最近の車ほど強くありません。
フェンダーを過剰に盛るわけでもない。
威圧的なグリルで殴ってくるわけでもない。
でも、その代わりにプロポーションがとてもいい。

低い。
長すぎない。
短すぎない。
ノーズがあり、キャビンが後ろ寄りで、ちゃんとFRスポーツに見える。
この“見た目の正しさ”は、今見てもかなり大きいです。

BRZは、スタイリングだけでスーパーカーを気取る車ではありません。
でも、
運転好きが見て「あ、これはちゃんとスポーツカーだな」と思える形
をしている。
そこがいい。


忖度なしで言えば、不満点もかなり分かりやすい

もちろん、この車を持ち上げるだけなら簡単です。
でもBRZ GTにも、かなりはっきりした弱点があります。

まず、やはり絶対的な速さには限界があります。
今の感覚では、加速のパンチも、追い越しの余裕も、もう少し欲しいと思う人は多いでしょう。
特にターボ車に慣れていると、どうしても“物足りなさ”を感じやすい。

次に、エンジンの気持ちよさが“超名機感”までは行かない。
自然吸気FRスポーツとしての思想は素晴らしいです。
でも、この車の魅力はエンジン単体の官能性というより、車全体のバランスで成立している楽しさです。
だから、ホンダの高回転NAみたいなエンジンの神話を期待すると少し違います。

さらに、内装の質感も価格や立ち位置なりです。
スポーツクーペとして十分ですが、プレミアム感でうっとりするタイプではありません。
ここに高級感を求めるとズレます。

要するにBRZ GTは、
全部が素晴らしい車ではなく、明確な弱点を“走りの楽しさ”で納得させる車
なんです。


この車の一番痛いところは、“分かる人には分かる”で終わりやすいこと

BRZの苦しさはここかもしれません。
この車の良さは、乗れば分かる。
走れば分かる。
でも逆に言えば、そこでしか分かりにくい。

派手な加速があるわけではない。
高級ブランドでもない。
見た瞬間に誰でも価値が分かるタイプでもない。
だから、どうしても
“分かる人だけが高く評価する車”
になりやすい。

でも、たぶんそれでいいんです。
BRZは、もともとそういう車です。
万人に一発で刺さるより、運転好きがじわじわ好きになる。
その少し不器用な立ち位置こそ、この車らしい。


総評

スバル BRZ GT(ZC6)'16は、速さやブランド力で殴るのではなく、運転そのものの面白さで勝負したFRスポーツクーペです。
数字だけなら派手ではない。
高級感も圧倒的ではない。
でも、低重心、自然吸気、FR、素直なハンドリングという要素が、かなり高い次元でまとまっている。

忖度なしで言えば、
絶対的な速さは足りない。
エンジンにももう一段の華が欲しい。
質感も特別高いわけではない。
それでもなお、
“運転が好きな人が、ちゃんと運転を味わえる車”
として、このBRZはかなり価値があります。

要するにこの車は、
**“派手な名車”ではなく、“正しい名車”**です。
そして、そういう車は時間が経つほど評価が上がる。
ZC6のBRZ GTは、たぶんそういう一台だと思います。

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