
■ 基本スペック (ノーマル時)
| 項目 | スペック |
| メーカー | マツダ |
| 駆動方式 | 4WD |
| エンジン | PE-VPH 直列4気筒 (e-SKYACTIV G 2.0) |
| 総排気量 | 1,997cc |
| 最高出力 | 156ps / 6,000rpm |
| 最大トルク | 20.0kgf・m / 4,000rpm |
| 全長×全幅×全高 | 4,460×1,795×1,440mm |
| 車両重量 | 1,450kg |
| トランスミッション | 6速AT |
この車を見ると、マツダがもう完全に「普通の国産大衆車メーカー」ではいたくないことがよく分かります。
車名は“MAZDA3 FASTBACK”。
しかも“Retro Sports Edition”という、いかにも欧州ブランドがやりそうな限定感のある名付け。
見た目も、昔のアクセラのような実用車寄りの顔ではなく、かなり低く、長く、塊感を強調したスタイルです。
つまりこの車は、最初から
「カローラやインプレッサのような分かりやすい実用品とは違いますよ」
という顔をしている。
ここはマツダらしいと言えばマツダらしいです。
昔からこのメーカーは、真っ向から売れ筋の王道を作るより、少しズラした“雰囲気のいい車”を作りたがる。
そしてMAZDA3は、その傾向がかなり強く出た世代です。
Retro Sports Editionは、その中でもさらに**“ちょっと特別な雰囲気を売る仕様”**として仕立てられています。
この車の一番いいところは、たぶん走りではなく“空気感”です
ここはかなり重要です。
MAZDA3 FASTBACK 20S Retro Sports Editionは、名前に“Sports”と入っていても、本気のスポーツモデルではありません。
むしろこの車の魅力は、速さや刺激ではなく、乗り込んだ時の空気の作り方にあります。
外から見た時の低い姿勢。
室内に入った時の落ち着いた色使い。
全体に漂う“ちょっと上質で、ちょっと気取った感じ”。
このあたりはかなり上手いです。
正直に言えば、走り出す前がピークとまでは言いません。
でも、走りそのものより
「この車に乗っている自分をどう見せたいか」
の満足感が先に立ちやすい車です。
国産Cセグメントのハッチバックで、ここまで雰囲気商売を成立させているのは、なかなか面白い。
ドイツ車っぽさを意識しているのは隠していない
この車には、かなり露骨に“欧州プレミアム風”の空気があります。
それもフランス車的なお洒落さというより、もっとドイツ車寄りです。
車名の整理の仕方、ハッチバックを“FASTBACK”と呼ぶ感じ、塊感を前に出したデザイン、やや重厚に見せる雰囲気。
全部が、
「大衆車だけど、少し上のクラスに見せたい」
という方向に揃っている。
問題は、その演出が悪いかというと別に悪くないことです。
むしろかなり上手い。
ただし、上手いからこそ人によっては
「マツダ、そこまでドイツ車っぽく振る必要あったか?」
とも感じる。
この車には、国産車ならではの親しみやすさや気楽さが少し薄い。
代わりに、少し硬質で、少し意識高めの空気が入っている。
それが魅力でもあり、鼻につく部分でもあります。
良い車なのに、少し肩がこる
MAZDA3全般に言えることですが、この車は“良い車”です。
乗り味も雑ではないし、質感もちゃんと作ってあるし、全体の統一感も強い。
でも、その良さが少し真面目すぎる。
たとえば昔のアクセラには、もう少し大衆車としての気軽さがありました。
一方でMAZDA3は、見る側にも乗る側にも
「これはちょっと良いものですよ」
と伝えたがる。
そこが少し窮屈に感じる時がある。
つまりこの車、
悪くない。むしろ出来はいい。
でも、ちょっと背伸びしている感じが常につきまとう。
ここが好きな人には深く刺さるし、嫌いな人には“気取った国産車”に見えるでしょう。
Retro Sports Editionという名前ほど、走りは熱くない
ここは忖度なしで言います。
“Retro Sports Edition”という名前から、少し濃い走りや特別な味付けを想像すると肩透かしです。
この車は、本質的には雰囲気重視の特別仕様であって、激しく走りを変えたモデルではありません。
だから、名前の強さに対して中身が少し大人しい。
悪く言えば、
“スポーツっぽく見せるのは上手いが、本気のスポーツではない”
ということです。
もちろん、日常で十分な性能はあります。
でも、そこで心が大きく揺さぶられるような加速や、思わず笑ってしまうような運動性能を期待する車ではない。
ここを間違えると評価を誤ります。
そして、実用ハッチバックとしては少し不親切
この車はスタイルに振っているぶん、実用面では少し我慢を強いられます。
後方視界、荷室の感覚、後席の開放感、そうした“普通のハッチバックに求める分かりやすい便利さ”では、少し素直ではありません。
つまり、
使い勝手より見た目を優先した車です。
これはもうはっきりしています。
ここが人によってはかなり大きい。
Cセグメントのハッチバックに求めるものが
「家族も乗せるし荷物も積みたいし、でも少し洒落ていたら嬉しい」
なら、もう少し素直な選択肢はいくらでもあります。
MAZDA3 FASTBACKはそこに対して、少し不器用です。
この車の弱点は、“高級路線”が目的化して見える瞬間があること
マツダの高級路線そのものは悪くありません。
むしろ、単なる安さ勝負から抜けたいなら当然の流れです。
ただ、この車を見ていると時々
「高級っぽく見せること」が先に立ちすぎている
ようにも見える。
走りの濃さより、質感の演出。
分かりやすい便利さより、スタイル。
車名やグレード名まで含めて、少しずつ“上級感”を積んでいる。
その結果、全体としては良いのに、どこかで
「で、この車の本質は何なんだ?」
と聞きたくなる瞬間があるんです。
高級ハッチなのか。
スポーティな特別仕様なのか。
お洒落な実用車なのか。
全部少しずつ当てはまる。
でも、ど真ん中の一本がやや曖昧。
ここがこの車のもどかしさでしょう。
それでも、この車が嫌いになれない理由
ここまで厳しめに書いてきましたが、MAZDA3 FASTBACK 20S Retro Sports Editionは、完全に否定したくなる車ではありません。
むしろ逆で、こういう車を真面目に出してくるからマツダは面白い。
売れ筋の正解をただなぞるのではなく、
“自分たちはこういう世界観の車を作りたい”
をはっきり出してくる。
その結果として、少し不器用で、少し気取り屋で、でもちゃんと雰囲気のある車ができる。
この感じは、いかにもマツダです。
この車は、万人向けの優等生ではない。
でも、こういうハッチバックが好きな人には、かなり深く刺さる。
その理由は単純で、ちゃんと美意識があるからです。
総評
MAZDA3 FASTBACK 20S Retro Sports Edition(BPFJ3R)'23は、マツダが高級路線へ踏み込みすぎたようにも見える一方で、その背伸びそのものが魅力になっている車です。
ドイツ車っぽいネーミング。
ドイツ車っぽい重厚な雰囲気。
スポーティに見せる演出。
そして、実用性より空気感を優先したファストバックの形。
全部をまとめると、この車は
“ちょっと気取った国産ハッチ”
です。
忖度なしで言えば、
スポーツの名前ほど熱くない。
高級の演出ほど圧倒的でもない。
実用ハッチとしては少し不親切。
でも、その曖昧さ込みで、ちゃんと魅力がある。
要するにこの車は、
**“正解の車”ではなく“好みで選ばれる車”**です。
そして、そういう車を作るのがマツダは昔から上手い。
MAZDA3 FASTBACK 20S Retro Sports Editionは、その良さと面倒くささがよく出た一台です。
