
■ 基本スペック (ノーマル時)
| 項目 | スペック |
| メーカー | ホンダ |
| 駆動方式 | 4WD (SPORT HYBRID SH-AWD) |
| エンジン | JNC V型6気筒 ツインターボ + 3モーター |
| 総排気量 | 3,492cc |
| 最高出力 | 610ps (システム総合) |
| 最大トルク | 68.0kgf・m (システム総合) |
| 全長×全幅×全高 | 4,535×1,940×1,215mm |
| 車両重量 | 1,760kg |
| トランスミッション | 9速DCT |
| 注:ゲーム内のスペックはエンジン単体の数値を表示している可能性がありますが、本車両はシステム総合で610psを発生します。 |
ホンダ NSX Type S (NC1) ’22は、2代目NSXの最終進化版として2021年8月に発表され、2022年7月に日本では30台限定で発売されたモデルです。全世界では350台限定。価格は2794万円で、3.5L V6 DOHCツインターボに3モーターを組み合わせた4WDハイブリッド、トランスミッションは9速デュアルクラッチという構成でした。エンジン単体は529PS/600N・mまで引き上げられ、Type Sでは冷却、ターボ、バッテリー出力、フロントモーターのギア比まで手が入っています。要するに、**「最後だから全部盛れるだけ盛った」**仕様です。
良いところ
まず、速さと完成度に文句をつけるのは無理があります。
Type SはベースのNC1に対して、エンジン出力を22PS、最大トルクを50N・m引き上げ、前輪側ツインモーターは20%ローギアード化、バッテリーも出力10%・使用可能容量20%アップという、かなり本気の改良を受けています。ホンダ公式も、燃焼効率向上、高耐熱ターボ、冷却性能向上、バッテリー出力拡大などを明言しており、単なる最終記念車ではなく、きっちり速くするための最終版でした。
試乗評価も、走りそのものはかなり高いです。
webCGはType Sを「たゆまぬ開発の到達点として納得できる完成度」と評していて、最終型らしい仕上がりの濃さを認めています。ベースの弱点を雑に隠したのではなく、細かい部分をしつこく煮詰めて完成度を上げた車、というのがこのクルマの本質です。速いだけではなく、ちゃんと磨き上げられている。 そこは素直に褒めていいです。
あと、ホンダがこういう車を本当に量産で出していたこと自体は立派です。
アルミ主体のスペースフレーム、3モーターハイブリッドSH-AWD、専用開発のパワートレイン、専用色、専用エアロ。コストだけ見れば、どう考えても普通の会社ならもっと早く逃げています。採算を考えると正気とは言いづらいのに、ちゃんと作り切った。 これは評価していいです。
でも、褒めすぎるとウソになる
ここからが本題です。
この車、めちゃくちゃ速いです。でも、“NSXらしいか”と言われるとかなり怪しい。初代NSXが神格化された理由は、軽さ、低さ、視界の良さ、自然吸気V6、MT、人間が主役というあの感触でした。対してNC1 Type Sは、3モーター4WDハイブリッド、9DCT、1770kg級という、思想からして別物です。もちろん速い。でもその速さは、初代の延長というより最新技術の総力戦でねじ伏せる速さです。初代NSXの文脈でそのまま愛されると思ったら、それはちょっと甘いです。
しかも、値段のわりに“夢の見せ方”が少し雑です。
carview!でも、約2800万円のスポーツカーに見えないインテリア、ひと世代前のステアリングやインターフェイス、カーボン加飾で急ごしらえ感をごまかしたような古さが指摘されています。ここはかなり痛いところです。走りは先進的なのに、触れる場所や眺める場所で**「あれ、ここ普通のホンダっぽいな」**が出てしまう。スーパーカーとしてはかなり損です。
さらに言えば、Type Sは最終版としてかなり頑張っている一方で、webCGも「大物コンポーネントには手はつけられていない」と書いています。
つまり、すごく真面目に煮詰めてはいる。でも、土台ごと作り替えるような革命ではない。そこは良くも悪くも“最終熟成型”です。ゼロから神話を作った車ではなく、最終的にかなり良くなった車。 ここを混同すると評価を盛りすぎます。
初代と比べたときの“NSXらしさ”
正直に言うと、あなたの「初代のほうがNSXらしい」という感覚はかなり自然です。
初代Type SはMR、6MT、1350kg、3.2L NA V6、しかも“人間中心のスーパースポーツ”という思想がそのまま車に出ていました。一方、2代目Type Sはホンダ自身が「人間中心のスーパースポーツ」の継承を掲げつつも、実際の商品は3モーターハイブリッドSH-AWDという、かなりテクノロジー寄りのアプローチです。思想の言い回しは継承でも、体験の質は別物です。
だからNC1 Type Sは、“NSXの最終形”ではあっても、“NSXらしさの純度が最も高い車”ではないです。
むしろこれは、ホンダが「今の時代にスーパーカーを作るならこうなる」を本気でやった結果の車です。そこに初代の軽さや潔さや、機械と人間が1対1で向き合う感じを期待するとズレます。速いかどうかと、NSXらしいかどうかは別問題です。ここを一緒にすると話がややこしくなります。
致命的欠陥と注意点
Type Sだけが抱える“一発アウト級の専用持病”が有名、という感じではありません。
ただし、NC1系NSX全体では、ハイマウントストップランプの不具合、燃料タンクの接合不良による燃料漏れのおそれ、さらに2023年には低圧燃料ポンプのインペラ不良による走行中エンストのおそれでリコールが出ています。これは趣味車だから笑って済ませる話ではありません。特に燃料系と制動灯系は、スーパーカーだろうが何だろうが、ダメなものはダメです。
なので、中古で見るなら「希少車だから状態も完璧だろう」と思わないほうがいいです。
台数が少ない車ほど神格化されがちですが、リコール対策履歴や整備履歴をきちんと見ないと危ないのは普通の量販車と同じです。むしろ金額が金額なので、雑に買うほうが愚かです。高いから安心ではなく、高いのに確認不足だと最悪です。
発売当時の評価
発売当時の評価は、かなりわかりやすかったです。
「速い」「熟成した」「最終型として完成度が高い」。このあたりは概ね一致しています。webCGでもType Sは完成度の高さが強く評価されていましたし、走りの磨き込みに対する不満はあまり見られません。つまり、商品としての出来はかなり良かった。そこは否定しづらいです。
ただ同時に、ビジネスとしては苦しかった。
webCGは、第2世代NSXの総生産台数が最終的に3000台弱となり、2016年の年間1500台規模の計画から考えると「ビジネス的に成功とはいえなかった」と書いています。ここがNC1を象徴しています。技術的にはすごい。商品としても完成度は高い。でも市場を熱狂で制圧したわけではない。 つまり、傑作ではあっても伝説になりきれなかった。
ホンダというメーカーへの評価
ホンダは、こういう無茶な企画を本当に形にする力はあります。
3モーターハイブリッドのスーパーカーなんて、言うのは簡単でも量産するのは別です。そこをやったのは立派ですし、技術屋集団としての底力は見せました。**「面白いことを本気でやる会社」**という評価は、NC1 Type Sにもちゃんと残っています。
ただ、ホンダは時々、技術の正しさと商品としての情緒をうまく接続できないことがあります。
NC1のNSXはまさにそこで、技術は凄いのに、“じゃあこの車にNSXの名前を与える意味は何か”の説明が最後まで少し弱かった。初代の神話が強すぎたのもありますが、それを差し引いても、技術の見せ場はあったのに、物語の見せ方は下手だったと思います。速い車は作れた。でも、みんなが思うNSX像を更新するところまでは届かなかった。そこは辛口で見てもいいです。
令和8年での中古相場
令和8年時点でのNSX Type Sは、はっきり言って“普通の相場”では語りにくいです。
カーセンサーの「NSX タイプ S」検索では、2022年式・走行113kmの「NSX 3.5 4WD タイプS・世界限定350台・未登録」という掲載例が確認できますが、価格は応談です。母数が少なすぎて、量販中古車のような値付けにはなっていません。
一方で、グーネット系の海外向け掲載では、2022年・113kmのType Sに38,625,000円の価格表示が出ています。さらに、2代目NSX全体の中古車価格帯はカーセンサーで2289.9万円〜3800万円、価格.comでもType Sの中古価格帯は2301万〜3830万円級とされています。
このあたりから見ると、Type Sは令和8年時点でざっくり3800万円前後、条件次第では4000万円に触れても不思議ではないプレミア帯と見てよさそうです。台数が少なすぎるので断言は危険ですが、少なくとも新車価格2794万円の延長線上に大人しく収まる車ではありません。
総評
ホンダ NSX Type S (NC1) ’22は、間違いなくすごい車です。
速い。完成度も高い。技術も濃い。最終型としての煮詰め方も見事です。ここは素直に認めるしかありません。
でも、“NSXらしさ”まで含めて絶賛しろと言われると、それは無理です。
初代が持っていた軽さ、潔さ、機械との近さ、人間が主役の感触。そういうものを期待すると、NC1 Type Sはかなり違う。これはNSXの名前を持つ超高性能ハイブリッド4WDスーパーカーであって、初代の再来ではありません。
要するにこの車は、ホンダの技術力の集大成としてはかなり立派。でも、NSXという名前にみんなが期待した夢を、全部そのまま回収した車ではないです。そこを認めたうえで好きになるなら、かなりいい車です。逆に、初代の亡霊を追いかけたまま乗ると、たぶんずっと少しモヤモヤします。
