ホンダ

ホンダ NSX Type S Zero(NA2)'97は隠れた名車か――NSX-Rの影に隠れた通好みの一台

■ 基本スペック (ノーマル時)

項目スペック
メーカーホンダ
駆動方式MR
エンジンC32B V型6気筒 NA
総排気量3,179cc
最高出力280ps / 7,300rpm
最大トルク31.0kgf・m / 5,300rpm
全長×全幅×全高4,430×1,810×1,160mm
車両重量1,270kg
トランスミッション6速MT

NSX Type S Zeroは、一言でいえば**“標準NSXとNSX-Rのあいだを埋める、軽量・硬派寄りのNSX”**です。
普通のNSXのような万能感は少し削る。
かといってNSX-Rのように完全に聖域へ突っ込むほどでもない。
この中間の絶妙さが、この車の面白さです。

しかもNA2世代ですから、3.2L化されたV6と6速MTを持ちながら、快適装備や余計な重さを削って、より運転に集中しやすい方向へ寄せている。
だからType S Zeroは、単なるグレード違いではありません。
**「NSXをもっと濃く味わいたいが、Rほど極端すぎるのは違う」**という人に向けた、かなり通な仕様です。

雑に言えば、
“NSX-Rの思想を少し現実寄りに薄めた車”
とも言えます。
ただ、その“少し薄めた”くらいが逆にちょうどいい。そこがこの車の良さです。


良いところ

1. 標準NSXより明らかに走りへ寄っている

Type S Zeroの一番分かりやすい価値はここです。
普通のNSXは、スーパーカー然とした見た目に対して驚くほど扱いやすく、完成度の高いバランス型でした。
一方でType S Zeroは、そこから快適性や甘さを少し削って、操作感の密度を濃くした感じがあります。

つまり、乗るとちゃんと“違い”がある。
単に名前だけ勇ましい仕様ではなく、走らせた時に分かる真面目な軽量・硬派仕様です。
こういうのは実にホンダらしいです。

2. NA2の3.2L+6MTという時点でかなり美味しい

この世代のNSXは、3.2L V6と6速MTの組み合わせがまず強いです。
数字の派手さだけで見れば今の時代はもっと上があります。
でも、高回転NAを自分で回し、6MTでつないでいく気持ちよさはやはり別物です。

しかもType S Zeroは、そこに軽量化や専用の味付けが乗る。
だから普通のNA2よりも、エンジンと車体の反応がよりストレートに感じやすい
ここがこの車のごちそうです。

3. NSX-Rほど“遠い存在”ではない

Rは別格です。
あまりにも特別で、あまりにも神格化されていて、もはや車好きの憧れというより半分文化財みたいな領域に入っています。
それに対してType S Zeroは、もちろん希少で簡単な存在ではないにせよ、Rほど伝説に飲み込まれていない

ここはかなり大きいです。
Rほど重くない。
でも、普通のNSXより明らかに濃い。
つまり、現実と理想のちょうど境目にいるNSXなんです。
この中途半端さは、欠点ではなく長所です。

4. “分かる人向け”の渋さがある

Type S Zeroは、普通の人が見て「おお、これは特別だ」となるタイプではありません。
ですが、分かる人が見るとかなり面白い。
この感じがたまりません。

派手な羽や露骨な演出で押すのではなく、知っている人ほどニヤつくタイプの濃さがある。
要するに、
通っぽいNSXです。
この渋さは、Rとも標準車ともまた違う魅力です。


ダメなところ

1. NSX-Rの影が強すぎる

この車の最大の不運はここです。
Type S Zero自体はかなり良い車です。
でも、NSXの硬派グレードを語るとどうしてもRが出てくる。
そしてRが強すぎる。

そのせいでType S Zeroは、
“良い車なのに、いつもRの前座みたいに見られやすい”
という損な立場にいます。
本来もっと評価されていいのに、伝説の横に立たされるせいで影が薄くなる。
これはかなり惜しいです。

2. 中途半端と言われると反論しづらい

この車の美点は“中間の美味しさ”ですが、裏を返せばそれは中途半端とも言えます。

  • 標準NSXほど快適ではない
  • NSX-Rほど振り切ってもいない
  • 知名度もRほどではない
  • 派手な分かりやすさも薄い

つまり、良さが分かるまで少し時間がかかる。
一発で“すごさ”が伝わる車ではありません。
だから、分からない人には「ちょっと硬派なNSXでしょ」で終わることもある。
ここはかなりもったいないです。

3. 快適性は普通に削られている

Type S Zeroは“Zero”の名の通り、余計なものを減らして走りに寄せた車です。
なので当然ながら、快適性や気楽さは普通のNSXより薄いです。

普通のNSXは“乗りやすいスーパーカー”としての完成度が高かった。
でもType S Zeroは、そこからさらに走りへ寄せている。
つまり、気楽に高級スポーツとして付き合うには少しストイックです。

要するにこの車、
普通のNSXの美点を一部捨てて、走りの純度へ交換した仕様です。
そこを理解していないと、思ったより窮屈に感じるはずです。

4. 今となっては現実離れしている

これはもうNSX系全体に言えますが、Type S Zeroも完全に“普通の中古スポーツカー”の領域ではありません。
希少性、相場、コンディション、オリジナル度。
全部が重いです。

つまりこの車は、今となっては単純に性能だけで選ぶ対象ではない
背景も希少性も含めて抱える車になっています。
それ自体が魅力でもありますが、現実的にはかなり厄介です。


この車の一番痛いところ

NSX Type S Zero(NA2)の一番痛いところは、**“ちょうど良すぎて伝説になりきれないこと”**です。

これはかなり皮肉です。
車としてはすごくいい。
立ち位置も面白い。
分かる人には深く刺さる。
でも、Rほど極端ではない。
普通のNSXほど万人向けでもない。

その結果、
美味しいのに、主役になりきれない
ここが最大の弱点です。

ただし逆に言えば、この“主役になりきれない絶妙さ”こそが好きな人には刺さる。
つまりこの車は、
目立つ名車ではなく、分かる人が拾い上げる名車
です。


標準NSXやNSX-Rとの比較

標準NSXとの比較

標準NSXは、バランス型です。
速さ、扱いやすさ、快適性、日常との距離感。
全部をかなり高い次元でまとめています。
その分、走りの刺激や硬派さでは少し丸い。

Type S Zeroは、その丸さを少し削っています。
つまり、
**標準NSXが“優等生”なら、Type S Zeroは“少し尖らせた優等生”**です。
この差は地味ですが大きいです。

NSX-Rとの比較

Rは別格です。
もはやホンダの執念そのものみたいな車です。
比べればType S Zeroのほうが現実寄りで、少し余白があります。

だからType S Zeroは、
Rの狂気を少し薄め、その代わり付き合いやすさをほんの少し残した車
と見ると分かりやすいです。
この“ほんの少し”が大事です。

NA2 NSX-Rが名刀なら、
Type S Zeroは実戦的な業物。
そんな感じです。

NC1型NSXとの比較

NC1は現代の高性能機械です。
速い。安定している。電子制御も先進的。
でも、Type S Zeroとは価値観が真逆です。

NC1が“未来型の高性能”なら、
Type S Zeroは**“軽さと感覚の高性能”**です。
数字だけで勝つ車ではない。
人間の操作がどれだけ濃く返ってくるかで勝負する車。
そこが古いNSX系の強みです。


ホンダというメーカーから見たType S Zero

この車は、かなりホンダらしいです。
しかも、一般的な実用車メーカーとしてのホンダではなく、技術屋が変なこだわりを見せた時のホンダです。

普通なら、標準車とRの二極で十分です。
でもそこに、こういう中間の濃い仕様を挟んでくる。
しかも中身もちゃんとある。
この“分かる人だけ分かればいい”みたいな商品企画が、実に嫌らしいくらいホンダです。

要するにType S Zeroは、
売れ筋の理屈より、車好きの感覚を優先したNSXです。
だから今見ても面白い。


総評

ホンダ NSX Type S Zero(NA2)'97は、NSX-Rほど神話化されていないのに、かなり本気で走りへ寄せた通好みのNSXです。
普通のNSXより濃い。
でもRほど極端ではない。
その中間にある絶妙な渋さが、この車の価値です。

忖度なしで言えば、
知名度では不利です。
中途半端にも見えます。
快適性も削られています。
今では現実離れもしています。
でも、それでもこの車には、分かる人だけが深くハマる濃さがある。

要するにこの車は、
**“派手な伝説”ではなく“静かな実力者”**です。
そして、そういう車ほど、長く見るとじわじわ効いてきます。
NSX Type S Zeroは、まさにそのタイプです。

-ホンダ